従業員の移民ビザ、つまり永住権をスポンサーする企業の要件のひとつに「支払い能力」があり、PERM Labor Certificateや移民請願書の提出時から、従業員が永住権を取得する日まで、決められた年収額を支払える財力があることを証明しなければなりません。永住権のプロセスは長期に渡ることから、プロセス中に従業員が転職することは珍しくありませんが、この「支払い能力」の要件は、以前の雇用主の元で永住権申請を開始し、在留資格/ステータス変更(Adjustment of Status/AOS)の審査期間中に転職してくる従業員のケースでも適用されます。 2024年、米国移民局は、従業員が永住権申請中に転職した場合のプロセスについて新たなガイダンスを発表しました。今回の変更は、米国企業や米国で働きながら永住権取得を目指す従業員双方に影響を与えるものとなりました。 2024年の新ガイダンスとは The American Competitiveness in the 21st Century Act (AC21) に基づき、Form I-140(移民請願書)が審査中の従業員も転職することができますが、米国移民局の新たなガイダンスによれば、転職先となる新雇用主は、その従業員が実際に勤務を開始する日からではなく、旧雇用主が請願書を提出した日(優先日。いわゆるPriority Date)から支払い能力があることを示さなければならない、としています。 従業員が新しい仕事にまだ就いていない場合でも、旧雇用主の元で永住権を申請した日付に遡って支払い能力を証明しなければならなくなり、雇用主は永住権申請中の従業員を雇用する際、今後は金銭的な考慮も必要になる、ということになります。 プロセスの仕組み それでは、具体的な例を挙げてみましょう。例えば、1月1日、ある従業員がA社へ就職、かつ、同じ日に、年収10万ドルの設定で永住権の申請書類も提出したとします。この時点で、A社は、申請書類が提出された1月1日から従業員の永住権が承認される日まで、年収10万ドルを月割りにし、その金額を支払える能力があることを毎月証明し続ける必要があります。 もし、その永住権申請中の従業員が、2月1日にB社に転職した場合、B社は、勤務を開始した日からではなく、A社で永住権の申請書類が提出された1月1日からの支払い能力が問われることになります。つまり、B社は当初の申請日からForm I-140請願書の審査期間、ひいては、永住権が承認される日まで、支払い能力があることを示さなければなりません。 注:申請料2,805ドルのプレミアム・プロセッシング・サービス(特急申請)を利用すれば、Form I-140請願書の審査に掛かる期間を15営業日に短縮できますが、プレミアム・プロセッシング・サービスを利用しない場合、審査期間は約10ヶ月掛かることもあります。 正しい選択をするために 雇用主の皆さんは、従業員の永住権をスポンサーするということが、いくつかの財政的および法的な義務を伴う点を予め理解しておく必要があります。ブランドン・バルボ法律事務所は米国ビジネス移民法の専門家として、スポンサー企業の責務を詳しくご説明し、必要な要件を満たすよう、支援しています。 転職してきた従業員、永住権のスポンサーシップ、または「支払い能力」に関する基準についてご質問がある場合は、弊所までお気軽にお問合せください。
Eビザは、米国における雇用を促進し、多額の投資を通じて米国経済に貢献する企業向けに設けられているビザクラスで、米国市場への進出を目指す企業にとって、まさにゲートウェイとなるビザです。 現在、Eビザを利用できるのは、日本を含む、米国と条約を締結している80カ国以上の国の企業です。ただし、日本企業の場合、Eビザの資格を維持するためには、定期的な見直しや従業員の異動にも注意を払うなど、特定のプロセスに従う必要があります。 はじめの一歩。企業を登録するプロセス 日本人の所有する企業がEビザを取得するための最初のステップは、米国大使館に企業を登録するところから始まります。この企業登録のプロセスでは、会社の事業計画、資本や投資の証明、資金源、所有権、給与台帳、財務諸表などが精査され、企業がEビザの資格を満たしているかが審査されます。 資格を備えた企業であると認められ、登録が完了すれば、その企業はEビザプログラムの下、日本人従業員を米国へ派遣し、就労させることが可能になります。ただし、この最初の申請には時間を要し、申請準備に1ヶ月から1ヶ月半、さらにその後、米国大使館による審査に2〜3ヶ月かかることが一般的です。この企業登録が完了していれば、その後に続く申請者の手続きは簡素かつ迅速で、多くの場合、米国大使館でのプロセスは2週間程しかかかりません。 Eビザ企業登録の維持 日本ではプライベート・エクイティ取引が増加傾向にあり、Eビザ企業としての国籍要件に注意する必要があることは、以前のブログでお伝えしましたが、他にも、Eビザの企業登録を維持するためには、米国で働く従業員のステータスに細心の注意を払う必要もあります。その理由は、米国企業でEビザを利用する従業員が少なくとも1名いなくてはならず、仮にEビザ従業員が退職する場合、退職前に別の従業員にEビザを引き継がなくては企業登録が失効する可能性があるためです。言い換えれば、複数のEビザ従業員がいる場合、1名が退職しても企業登録は失効しない、ということになります。 例えば、ある企業の従業員が、その企業で初のEビザを取得、米国で勤務する中、さらに別の従業員を米国へ派遣したい場合、すでにEビザ企業登録は完了しているため、2回目以降の申請は迅速かつ低コストで済みます。一方、Eビザ従業員が1名しかいない企業で、後任者がいないまま、その従業員が退職した場合、後日、新たに別の従業員がEビザを取得したくとも、再度、米国大使館への企業登録から申請し直しとなり、時間もコストもかかることになるのです。 Eビザ企業登録を守るためには 米国企業で複数のEビザ従業員を維持することは、不必要な混乱を避け、企業登録を守るための最善策と言えます。同時に2名のEビザ従業員を確保することが難しい場合、Eビザを保持する従業員のステータスを必ず定期的に確認してください。また、Eビザ従業員の退職や帰国の可能性も視野に入れ、予め後任者を確保しておくことも大事です。スムーズにEビザを引き継ぐことができれば、企業登録を失効させることもなく、結果的にシームレスな事業運営を続けることができるのです。 Eビザ企業登録の維持や移民法に関するサポートが必要な方は、ブランドン・バルボ法律事務所までご相談ください。複雑な移民法に関する手続きや規制に、効率的かつ効果的に対応するための支援を提供いたします。
従業員の移民ステータスを管理することは、人事担当者にとって非常に大事な任務です。米国移民法は、益々複雑で厳密になっており、法的なトラブルを避けるためには、移民関連の書類を随時確認することが不可欠です。 従業員本人だけでなく、米国で暮らすその家族の分も含め、Form I-94、パスポート、L-1ブランケットビザ従業員のForm I-129Sなど、重要な移民関連の書類を注意深く追跡していくことが法的トラブルを避ける最善策なのです。 定期的な確認がカギ 米国に駐在している従業員が米国移民法に則り、正しいステータスを守り続けるためには、上述した書類以外にも、Form I-797承認書やビザステッカーも含め、移民関連書類の定期的な確認を欠かすことはできません。 よくあるトラブルのひとつが、Form I-94の期限が残り期限の少ないパスポートの期限に合わせられていたことに気づかず、パスポート更新時にForm I-94がすでに失効していたことに初めて気づくケースです。特に、最近では入国審査でパスポートに入国スタンプを押印するプロセスが廃止され、より留意して滞在期限を確認しなくてはならなくなりました。そのため、従業員の滞在資格や期限をしっかりと管理することは、企業にとって益々重要になっているのです。 コンプライアンスを守るための積極的な対策 従業員の滞在期限を確実に把握するには、積極的に追跡、確認する体制を整えることが重要です。例えば、従業員のパスポート情報があれば、CBP(米国税関・国境警備局)のウェブサイトにてForm I-94の有効期限を簡単に調べることができますから、四半期ごとに各従業員のForm I-94を確認する対策を設けることは、大変効果のある方法のひとつです。ただし、ウェブサイトの情報が必ずしも正しいとは言い切れませんので、他の書類とも照らし合わせながら確認して下さい。 また、パスポートの有効期限を確認し、余裕を持って更新するよう、従業員に呼びかけることも大事です。上述の例のように、そのビザクラスに対して最長で認められる滞在期間よりもパスポートの有効期限が短い場合、入国審査官はパスポートに合わせてForm I-94の期限を設定することがよくあります。つまり、従業員の滞在期間が予想よりも短くなっている危険性があるのです。そのため、パスポートの更新手続きを済ませるよう、従業員に早め早めに促す体制を整えれば、こうしたトラブルを回避することができるでしょう。 L-1ブランケットビザを持つ従業員については、ビザステッカーだけでなく、Form I-129Sの有効期限も必ず把握して下さい。日本人のL-1ビザステッカーは最長5年の期間で発給されますが、実際に従業員が米国で合法的に働ける期間は、Form I-129Sの有効期限までです。例えば、L-1ビザステッカーは2029年7月1日まで有効、一方のForm I-129Sは2026年5月10日まで有効の場合、その従業員が米国で就労できるのは2026年5月10日までとなります。このように、L-1ビザステッカーとForm I-129Sの期限がそれぞれで異なるため、これらの期限をより注意して確認する必要があるのです。 コンプライアンスを徹底サポート ブランドン・バルボ法律事務所では、従業員が米国移民法を守ることがいかに重要かを理解し、複雑なビザステータスを管理する人事担当者のお手伝いをしています。各社のニーズに合わせた法的アドバイスを提供し、人事担当者と協力しながら従業員のコンプライアンスを維持することで、事業をスムーズに運営できるようサポートします。従業員の移民ステータスやその管理について、ご質問や疑問のある方は、弊所までお気軽にお問合せ下さい。