長年、米国企業は新卒者や人材の見つかりにくい技術者を雇用する際、H-1Bビザの抽選制度に依存しつつ、外国人を雇用してきました。しかし、この制度が今、大きく変わろうとしています。 現行のランダムな抽選によるH-1Bプログラムは、今後、給与に基づく制度へ移行するかもしれません。すなわち、高額な給与を提示できる企業が優先され、競争力はありながらも、中級レベルの給与しか提示できない中小企業に不利になる可能性があるのです。 そのため、H-1Bプログラムを通じて採用を考えている企業は、早めに準備を始め、EビザやLビザなどの代替案を検討するとともに、米国移民局 (USCIS) から今後発表されるルールの変更に注視していく必要があります。とりわけ、中小企業の場合は、どのように変わるのか、どのような影響を受けるのかを正しく理解することがとても大切です。 現在の抽選制度の仕組み 現在のH-1Bビザのプロセスは、ランダムに申請者が選ばれる抽選制度に基づいています。雇用主が短い応募期間内(通常は2月に実施)にオンライン登録を済ませた後、抽選が行われます。抽選で選ばれた雇用主には3月31日までにその旨が米国移民局より通知され、そして、ようやく申請書類を提出することができる、という仕組みです。 H-1Bビザは年間発給数に限りがあり、一般申請者が65,000枠、米国の修士号以上の申請者が20,000枠、合計85,000枠までの発給が認められています。2024年度には、米国移民局 (USCIS) に758,994件の応募がありましたが、そのうち抽選で選ばれたのはわずか188,400件(24.8%)に過ぎませんでした。この数字からも、需要が供給をはるかに上回っていることがわかります。 何が変わるのか、そしてなぜ重要なのか 先日、米国移民局は、まもなくH-1Bプログラムに大幅な変更がある可能性が高いことを示唆しました。現行のランダムな抽選から、給与に基づく制度へ切り替えられる可能性があり、高額な給与を提示できる企業から順にH-1Bビザが割り当てられていくというものです。 この案は、前期トランプ政権の最後の数か月間に提案されたもので、「より高度なスキルを持つ労働者を優先することを目標とする」と表明されましたが、現実には以下の内容を意味します。 予算が大きい大手企業(特にテクノロジー業界)がH-1B枠を独占する可能性がある 初級、中級レベルの給与を提示することの多い中小企業、スタートアップ、非営利団体は、H-1B枠を全く確保できない可能性がある もしも高額な給与の提示をすぐに受けられない場合、米国の大学を卒業する留学生は、ビザスポンサーを失う可能性がある 最終的なルールはまだ発表されていませんが、前期トランプ政権時代の提案に近い内容になると予想されています。決定されれば、次回のH-1B申請から適用される可能性があります。 過去の実例:制度が一部を優遇する 1980年代後半から1990年代初頭にかけて、米国では「多様性ビザプログラム(Diversity Visa Program)」と呼ばれるグリーンカードの抽選制度が導入されました。この制度では、年間55,000件までのグリーンカードが抽選で付与されていましたが、ある年、そのうち約20,000件(全体の3分の1以上)がアイルランド出身の応募者に付与されたことがありました。 これは統計的にありえない数字で、何らかの操作があったと考えられますが、結局、調査は行われませんでした。この出来事は、抽選制度であれど、政治的な意図や特定のグループへの “えこひいき” は起こり得るという印象を強く残しました。 そして、今、私たちは給与額による “えこひいき” を目撃することになるのかもしれません。 今、雇用主ができること もし来年のH-1B申請を検討している場合、以下のステップを参考にしてください: 早めの計画 2026年の登録期間は2月に開始され、3月中旬までで締め切られる見込みです。 現実的な予算 […]
「ESTA(エスタ)」は便利な制度ですが、「ビザ不要=ルールなし」ということではありませんし、米国への入国を保証する「フリーパス」でもありません。意図せずとも誤った行動を取れば、米国税関・国境警備局(CBP)にマークされたり、尋問されたり、最悪の場合は入国を拒否されることもありえるのです。ESTAを利用して米国へ入国する場合、制限やリスクもあることを予め理解しておきましょう。 ESTAとは何か ESTAは、「電子渡航認証システム(Electronic System for Travel Authorization)」の略称で、ビザの一種ではありません。これは、日本を含む特定の国の国民が、事前に何かしらのビザステッカーを取得せずとも米国を訪問することを可能にするシステムです。渡航前にオンラインで登録するだけですが、最終的に米国へ入国できるか否かは移民審査官の判断に委ねられています。 ESTAで認められている活動内容は、B-1/B-2ビザの内容と同じで、例えば、会議や学会への参加、観光は問題ありませんが、米国内での就労や学校への通学は認められていません。但し、B-1/B-2ビザとは異なり、滞在は最長90日までで、滞在期間を延長することは出来ません(ごくまれな医療上の理由をのぞく)。 ESTAで注意すべき「90日間の制限」 上述のように、ESTAを利用して入国する場合、1回の訪問ごとに最長90日までの滞在期間が認められます。このルールは絶対で、滞在期間を延長したり、在留資格を変更するといった申請は一切認められていません。もし、90日の滞在期間を超えて米国内に滞在した場合、現行のポリシー下では、生涯にわたってESTAの使用が禁じられます。 非常に限られた例外として、医療上の緊急事態により、一度きりの30日間の延長が認められたケースがありましたが、これには強力な証拠が必要で、決して自動的に許可されるものではありませんし、一般的な方法でもありません。 渡航の頻度に要注意 ビジネスや家庭の理由で、数週間ごとにESTAを利用して渡米する方々がいますが、複数の訪問を繰り返すと、入国審査官から質問を受ける可能性が高まります。場合によっては「渡航頻度が多すぎる。ビザを申請すべき」と指摘され、その時は入国できたとしても、次回の入国は拒否される可能性もあります。 ESTAでの訪問回数に関する規定はありませんが、とはいえ、自由に、何度でも、簡単に米国への入国が認められているわけでもありません。頻度が多かったり、滞在期間が長いと、入国審査官に警戒されることは間違いありません。 フレキシブルな帰国便チケットの用意 ESTAを利用することでよくあるトラブルは、入国審査官に「数週間の滞在です」と述べたにも関わらず、提示した帰国便の日付が89日後など、ずっと後になっている場合です。これは入国審査官に誤った印象を与えますので、口頭で伝える滞在予定と一致する帰国便を必ず用意してください。 入国審査官にとって、審査上、最も重要なポイントのひとつが、「必ず帰国することの確認」です。例えば、訪問者が「2週間滞在します」と述べ、それに沿った日付の帰国便を提示していれば、帰国の意思はあると見做してもらえるでしょう。 なお、後々、日程を変更しなくてはならない場合に備え、柔軟に変更できるチケットを用意することが賢明です。 電子機器は確認されます 入国審査官は、スマートフォン、ノートパソコン、その他の電子機器に保存されている内容を調べることができ、実際に頻繁に実施されています。もし、それらの電子機器内に、米国で不法に就労していることを示唆するメールやテキスト、ファイルなどが見つかれば、たとえリモートワークであっても、入国を拒否される可能性があります。よって、冗談でも、まるで就労しているように思わせる文面を残したり、書類を持ち込むことは止めてください。また、ソーシャルメディアにおいても、誤解を招きやすい内容の投稿は控えてください。 ESTAでの就労は違法で、これは絶対に守るべきルールです。たとえ、米国外にある外国企業のリモートワークであっても、物理的に米国内にいる状態で作業を行う場合は疑問視される可能性があります。ルール違反と判断された場合、その場でESTAが取り消され、その日のうちに帰国させられることもありえます。 ESTAは便利だが、リスクがないわけではない 短期の訪問で、きちんとルールを守れば、大変便利なシステムであるESTA。滞在期間を超えず、渡航頻度も多すぎなければ、米国へ入国する手軽な方法といえますが、ビジネスや私的な理由で、頻繁または長期滞在が必要な場合は、適切なビザを申請することをお勧めします。 入国審査官に「ルールを知らなかった」という言い訳は通用しません。彼らが重視するのは、目の前に見える事実、つまり、渡航履歴、本人の発言内容、電子機器内のデータの内容です。少しでも不審に見えれば、その場は入国できたとしても、それが最後のESTA訪問になる可能性もあります。 次回の渡米は、ESTAを利用するべきか、それとも、B-1/B-2ビザを取得したほうが良いのか、判断にお困りの場合は、弊所までご相談ください。余計な不安やトラブルなしに、正しい方法で米国へ入国できるよう、お手伝いします。
グリーンカードの有効期限が近づいてから(あるいは、さらに悪い場合は、すでに失効してから)慌てる方は少なくありません。中には「更新を逃すと、ICE(移民・関税執行局)や空港でトラブルになるのではないか」と不安に思う方、更新手続きが思ったように進まず、落ち着かない日々をお過ごしの方も多いことでしょう。グリーンカードの意味、更新にかかる期間、そして、更新の手続きが遅れた場合の対処法については誤解や混乱が多いため、更新前に知っておきたい重要なポイントをご案内します。 更新申請はお早めに! グリーンカードの更新は、有効期限の6か月前から申請することができます。現在の状況下では、これを更新申請のための単なるガイドラインとして捉えず、できるだけ早めに申請することが賢明です。現在、更新手続きにかかる期間は個々のケースによって大きく異なり、1週間程度で完了することもあれば、2年近くかかることもありますから、早めに申請すれば、その分、手続き中の不安やトラブルを回避できる可能性が高まります。 また、オンラインによる申請は、申請書類を米国移民局へ郵送する場合に比べ、プロセスが早く進む傾向にあります。申請書類の提出後にはReceipt Notice (受理通知書 / Form I-797) が発給されますが、これは更新を申請したことの証明となり、グリーンカードの有効期限は自動的に最長24か月延長されます。すなわち、お手元に失効したグリーンカードしかなくても、永住権保持者であることを証明することができるのです。 有効期限が切れてもステータスは継続している? 「グリーンカードの期限が失効すると、合法的な滞在資格(ステータス)がなくなる」と思う方もいますが、これは誤解です。カードの有効期限はあくまでカード自体の期限であり、永住権保持者としてのステータスを失うわけではありません。 しかしながら、有効なグリーンカードや受理通知書が手元にない場合、ステータスを証明する物理的な証拠がなく、トラブルを招くことも考えられます。そのためにも、早めに更新を申請すること、書類の控えを保管しておくことが非常に重要なのです。 米国市民権の検討 10年ごとに訪れるグリーンカード更新の手間や費用の負担が気になる方は、帰化して米国市民になることを検討するタイミングかもしれません。米国市民になれば、もちろん、永住権の更新は不要となり、米国パスポートも取得できます。ただし、日本は二重国籍を認めていないため、米国市民になる場合は日本の国籍とパスポートを手放す必要があります。これは人生において大変大きな決断でしょうから、容易に決められないかもしれません。一方、二重国籍が認められている国の方であれば、米国市民になることは長期的にメリットのある選択肢といえます。 企業の人事担当者向けの注意点 企業が従業員のグリーンカードの更新状況を把握していないことは少なくありません。特に、もともとEビザやLビザで入社し、その後にグリーンカードを取得した従業員の場合、有効期限の認識が曖昧になりやすい傾向にあります。 人事担当の皆様は、従業員のグリーンカードの有効期限も定期的に確認し、早めの更新手続きを促すなど、積極的に対応してください。 焦らず、でも行動は早めに グリーンカードの有効期限が残り6か月以内、または、すでに失効している場合は、すぐさま行動を起こしましょう。できるだけ早く申請書類の提出を済ませ、また、申請後は受理通知書を大切に保管してください。新しいグリーンカードがまだ届かず、海外旅行からの再入国や行政上の強制執行を懸念される場合は、一時的な渡航書類やステータスの証明について、専門家に相談することをお勧めします。 新しいグリーンカードの発給が遅れたり、手元にステータスを証明する書類のない期間があっても、必要以上に不安にかられないでください。確かに、現在の移民手続きには時間を要したり、進み方も一貫性がありませんが、対処法はありますので、落ち着いて行動しましょう。グリーンカードの更新、市民権申請についてご質問のある方は、ブランドン・バルボ法律事務所までお気軽にお問い合わせください。