初のE-2ビザ従業員を雇用する前にHRが押さえるべき7つの優先事項

エグゼクティブサマリー:
E-2ビザを通じて米国市場へ進出する日本企業にとって、従業員を雇用する前にHR体制を整えておくことは非常に重要です。給与計算の設定、日米社会保障協定への対応、州別の雇用法コンプライアンス、労災保険、従業員ハンドブックの整備、適切なI-9手続きといった優先事項を早めに準備することで、将来のリスクを抑え、より円滑で安定した事業運営につなげることができます。

E-2ビザを取得し、米国で事業を立ち上げることは大きなマイルストーンです。最初の従業員を雇用することで、事業運営は現実のものとなり、本格的な成長フェーズへ移行します。

一方で、多くの企業が陥りがちな落とし穴があります。E-2ビザの取得には十分な準備を重ねても、米国で従業員を雇用するための実務体制が整っていないことに、後から気づくケースは少なくありません。例えば、給与計算の仕組みが設定されていない、雇用関連の文書が十分に準備されていない、源泉徴収や税務対応検討されていない、基本的なコンプライアンス対応ができていないといった例が挙げられます。

特に、初めて米国市場へ進出する日本企業にとっては、このような準備不足が、事業を始める早い段階で法的なリスクやコンプライアンス上の問題につながる可能性があります。

E-2ビザは米国移民国籍法第101条(a)(15)(E)に基づく投資家ビザですが、E-2ビザの承認はあくまでスタートに過ぎません。実際に米国で従業員を雇用した時点から、連邦法および州法に基づく雇用法が直ちに適用されます。

今回は、E-2ビザで米国へ進出した企業が初めて従業員を雇用する際、人事担当者があらかじめ押さえておくべきポイントをご紹介します。

  • 適切な給与計算の構築

「従業員の給与は米国法人から支払えばよい」というほど、単純なものではありません。E-2ビザ保持者の中には、給与をすべて米国法人から受け取る人もいれば、日本法人から一部または全額を受け取る人、あるいは日米双方からけ取る人もいます。いずれの方法を選択する場合でも、関連する税務・雇用上の義務を考慮した上で、慎重に検討する必要があります

給与の支払い方法は、源泉徴収税、福利厚生の適格性、各種報告義務、さらにはビザ手続きにも影響します。給与を日米双方から支給する場合は、その内容を明確に文書化しておくことが重要です。

こうした給与の支払い方法は、従業員が勤務を開始した後ではなく、開始前に決定しておくべき事項です。

  • 日米社会保障協定の適用を確認する

見落とされがちな問題の一つが、社会保険料の二重負担です。

米国は、日本との間で社会保障協定(Totalization Agreement)を締結しています。これは、相手国へ一時的派遣される従業員、両国の社会保険制度へ二重に加入することをぐための制度です。事前に対応していない場合、従業員は次のような負担をう可能性があります。

  • 米国の社会保障税
  • 米国のメディケア税
  • 日本の年金保険料

こうした二重負担は、避けられるのであれば事前に防ぐべき不要なコストです。

一時的に米国へ派遣される従業員については、一定の条件を満たす場合、米国の制度ではなく日本の制度に引き続き加入できることがあります。通常、そのためには適用証明書などの書類を事前に取得しておく必要があります。

事前に対応しないまま赴任すると、将来、給付を受けることのない制度へ保険料を支払うことになりかねません。

  • そのE-2ビジネスは米国での雇用を促進するか?

E-2ビザは、単なる受動的な投資を目的とした制度ではありません。対象となる事業には実態があり、能動的に運営され、十分な収益性が見込まれる必要があります。また、米国人従業員の雇用は地域経済への貢献を示す要素となるため、E-2ビザの申請や更新において有利に働くことがあります

人事担当者としては、次のような点を確認しておくことが重要です。

  • 十分な数の米国人従業員を既に雇用しているか 
  • 今後の事業拡大計画に採用計画が含まれているか 
  • 実際の人員体制が、ビザ申請時に提出した事業計画や説明内容と一致しているか

実際の事業運営がビザ申請時の内容と大きく異なる場合、将来のビザ更新時に問題となる可能性があります。

  • 連邦法と州法の違いを理解する

多くの外国企業は、米国の雇用法を全米一律の制度だと考えがちですが、実際にはそうではありません。

連邦法は、賃金基準、差別禁止、I-9による雇用資格確認など、主要な事項を定めています。一方で、各州は独自の規制や雇用主に対する追加義務を設けています。

そのため、カリフォルニア州で求められる義務が、テキサス州、ジョージア州、ニューヨーク州でも同様に求められるとは限りません。州法では、例えば以下のような事項について規定されています。

  • 食事休憩・休憩時間 
  • 有給病気休暇 
  • 退職時の最終給与の支払期限 
  • 賃金通知義務 
  • ハラスメント研修 
  • 競業避止義務の制限 

そのため、米国での人事コンプライアンスは、会社所在地だけで判断するのではなく、従業員が実際に勤務する州ごとに確認・対応する必要があります。

  • 労災保険と福利厚生の整備

米国では、従業員を雇用した時点で、ほとんどの州において労災保険への加入が義務付けられています。海外の保険米国内の職場で発生した労災までカバーできると、安易に考えるべきではありません。

また、以下の制度についても検討しておく必要があります。

  • 健康保険制度 
  • 退職金・年金制度 
  • 各種休暇制度 
  • 州によって義務付けられる短期障害給付制度 

福利厚生制度は、単なるコンプライアンス対応ではなく、優秀な人材を確保し、長期的な雇用を維持するための重要な要素です。

  • 従業員ハンドブックの整備

米国で事業を拡大していく上で、従業員ハンドブックは重要な人事管理ツールとなります。職場のルールを明確にし、コンプライアンス体制を支える役割を果たします。基本的なハンドブックには、以下のような項目を含めることが一般的です

  • 職場での行動規範 
  • ハラスメント防止方針 
  • 各種休暇の取得手続き 
  • 勤怠管理 
  • 苦情・相談の報告方法
  • 賃金および労働時間の管理方法
  • IT機器・システムの利用ルール 

ハンドブックは、従業員が勤務する州の法律を反映したものでなければなりません。日本本社のハンドブックをそのまま流用しても、米国の雇用コンプライアンス上の問題は解決できません。

  • I-9コンプライアンスへの適切な対応

米国のすべての雇用主は、移民改革統制法(IRCA)に基づき、雇用する従業員ごとにForm I-9を作成し、就労資格を確認する義務があります。具体的には、次の点が求められます。

  • 定められた期限内にForm I-9を完成させること
  • 本人確認および就労資格を示す有効な書類を確認すること
  • 書類の不当要求や差別的な扱いを行わないこと 
  • 記録を適切に保管すること

I-9の手続きに不備があると、監査や罰則の対象となる可能性があります。そして、すべての従業員について一貫した手続きを実施することが重要です。慌ただしく採用を進める中で、I-9対応を後回しにしてしまう企業は少なくありません。

ビザの承認はゴールではなく、米国での事業運営のスタートです。

E-2ビザで米国へ進出する企業の多くは、人事・労務上のコンプライアンス対応が、従業員の雇用開始と同時に求められることを十分に認識していません。給与計算、就労資格確認、税務上の手続き、保険、州法への対応など、取り組む課題は数多くあります。

早めに準備を始める企業ほど、予期せぬ問題を避けながら事業を拡大しやすくなります。E-2ビザでの米国進出や従業員の雇用をご検討の際は、バルボ&アソシエイツまでお気軽にご相談ください。事前の適切な準備、将来のコンプライアンス上の問題や予期せぬコストの発生を防ぐための重要な第一歩となります。

よくあるご質問

E-2ビザ保持者は日本法人から給与を受け続けることはできますか?

はい。報酬は、会社の体制やコンプライアンス上の要件に応じて、日本法人、米国法人、またはその両方から支払うことが可能です。

日本と米国の間には社会保障協定がありますか?

はい。日米社会保障協定により、要件を満たす一時的な赴任については、社会保険料の二重負担を防ぐことができます。

最初の米国従業員のために、労災保険への加入は必要ですか?

通常は必要です。要件は州によって異なりますが、多くの州で労災保険への加入が義務付けられています。

Form I-9とは何ですか?

Form I-9は、従業員の本人確認および米国で働く資格(就労資格)を確認するための書類です。米国の雇用主は、連邦法に基づき、適切に作成・保管する必要があります。

従業員ハンドブックは全米共通で使用できますか?

通常、そのまま使用することはできません。米国では州ごとに雇用法が大きく異なるため、ハンドブックの内容は、従業員が実際に勤務する州の規制を反映する必要があります。

By Brandon Valvo