ビザ審査とは? 米国は5,500万人を監視できるのか?

概要:米国では現在、ビザ保持者に対する「継続的な審査(Continuous Vetting)」が適応されており、犯罪歴からソーシャルメディア上の発言まで、幅広く確認されています。このプログラムによれば、約5,500万人ものビザ保持者が監視の対象とされていますが、実際に影響を受けやすいのは留学生や特定のビザカテゴリーに偏っているのが現状です。ビザステッカーが取り消された場合、必ずしもすぐに米国から退去しなければならないわけではありませんが、再入国はできなくなります。そのため、企業や個人は、特にオンライン上で発信する情報には十分注意する必要があります。

「ビザが承認されればひと安心」と思いがちですが、米国政府の見解は異なります。ここ数年でビザの審査方法は、申請時のバックグラウンドチェックに止まらず、その後もソーシャルメディアでの発言、過去の行動、さらには政治的見解までもが継続的に監視されるプロセスへと大きく変化しています。一見するとセキュリティ対策のように聞こえますが、留学生や駐在員、そして外国人労働者を雇う企業にとっては深刻な懸念をもたらします。

「継続的審査(Continuous Vetting)」とは?

米国国務長官は、何十年も前からいつでもビザを取り消せる権限を持っていましたが、ポイントは「権限そのもの」ではなく、その権力がどれだけ頻繁に、どの程度広範囲に行使されるようになったか、です。

現在の米国政府は「継続的審査」の名のもと、約5,500万件の発給済ビザの記録を継続的に見直す計画を進めています。審査の対象となるのは、身元情報の再確認、公的活動、さらにはソーシャルメディアでの発言内容などが挙げられます。

しかしながら、現実的に5,500万人ものビザ保持者を「実際に意味のある形」で審査するのは不可能です。審査官がビザ保持者個々人の勤務先や学校を訪ね、ビザの申請時通りの活動を続けているかを確認するなど、物理的にも、論理的にも成り立ちません。ところが、そうした監視制度を可能にする仕組みが着実に整えられつつあるのです。

実際に監視されていること

この「継続的審査」で特に対象となりやすいのは次の方々です。

  • 留学生や比較的年齢の若いビザ保持者
  • 飲酒運転(DUI)を含む、逮捕、犯罪、有罪歴がある人
  • 「反米的」と見なされる投稿や発言をする人

たとえば、学生が米国の政治に関する意見をソーシャルメディアに投稿したり、特定のオンラインコミュニティに参加しただけで、ビザが取り消された実例が報告されています。

通知のタイミングも様々で、渡航前にビザの取り消しが通知される場合、入国時に空港で止められる場合、米国に滞在中に通知が届く場合もあります。

米国大使館から届く通知メールには「あなたのビザステッカーは取り消されました。速やかに帰国してください」といった内容が記載されており、これで全てが終わったかのように感じますが、実はそうとも限らないのです。

ビザステッカーが取り消されても米国滞在は可能

「ビザステッカーが取り消される=すぐに帰国しなければならない」と考えられがちですが、すでに米国内に滞在している場合、ビザステッカーが取り消されたからといって、自動的に出国義務が生じるわけでもありません。ビザステッカーは無効になりますが、滞在資格そのもの(F-1ステータスH-1Bステータスなど)は、引き続き有効な場合があります。

つまり、米国政府が正式に退去手続きを進めない限り、米国内で仕事や学業を続けることは可能なのです。とはいえ、渡航に必要なビザステッカーはすでに無効になっていますから、ひとたび米国を出国すれば再入国ができませんので、無論、安心できる状態とは言えません。

このビザステッカー取り消しのプロセスは、不法就労、ソーシャルメディアへの不用意な投稿をする学生に特に多く見受けられ、そのリスクを高めています。よって、日頃から、ソーシャルメディアでの発言やオンライン上の活動には十二分に注意しなくてはなりません。

ソーシャルメディアのたった一つの投稿が。。

よくあるのは、無許可のアルバイトをソーシャルメディアに得意げに投稿する学生で、「XXXでのアルバイトが楽しい!」といった内容を投稿した学生が再入国を拒否された実例も報告されています。すなわち、審査官はソーシャルメディアを監視しており、さらに、削除された投稿も専用ツールで確認できますから、「都合の悪い投稿は削除すれば大丈夫」ではないのです。

「みんなやっていることなのに。。」と困惑しながら相談される方もいますが、残念ながら、その理屈は通りません。違法な就労など、そのビザクラスの要件に違反し、その内容を堂々と投稿すれば、ビザステッカーの拒否や取り消しもやむを得ないと言わざるを得ません。

実は、米国政府は2019年より、ビザ申請時にソーシャルメディアのアカウント情報(ハンドルネーム)の収集を始めましたので、これは最近始まったポリシーではありません。ただ、最近、その情報がより積極的に管理や審査に利用されるようになった、ということなのです。

企業・人事担当者への注意点

外国人従業員を雇用する企業にとって、この「継続的審査」は決して他人事ではありません。現時点でリスクが最も高いのは学生ビザ保持者ですが、同じ審査がH-1BやL-1などの就労ビザ保持者に拡大される可能性は否めません。

米国政府がこのプログラムをどこまで進めるか不明ではあるものの、全従業員に、ソーシャルメディアへの投稿に伴うリスク、そして、個人の行動が企業全体に与えうる影響を伝え、理解させる必要があります。たったひとつの投稿が、審査結果を「承認」から「却下」へ逆転させてしまいかねないのです。

この「継続的審査」はすでに始まっており、米国政府はこれまで以上に権限を行使し、正式な手続きなしにビザを取り消しています。留学生やビザ保持者、外国人従業員を雇用する企業にとって、これは、「自分には関係ない」「ただのニュースや情報」ではなく、現実的なリスクを伴うプログラムであることを理解しておいてください。「継続的審査」に関する詳細、ご相談は、ブランドン・バルボ法律事務所まで、お気軽にお問合せください。

By Brandon Valvo